第8回 雨水ネットワーク会議 全国大会2015in愛知
雨は、恵みと 緑と 情をはぐくむ ~ものづくり愛知の忘れ物 雨水 里山 環(わ)の心~
開催日:2015年 8月21日・22日・23日
会 場:愛・地球博記念公園(モリコロパーク) 地球市民交流センター
『雨』と聞くと梅雨の不快感や災害をもたらすものと考えてしまいがち・・・しかし、身の回りの生命は雨によって育くまれ、私たちの暮らしは今も昔もその恵みによって成り立っています。気候温暖で雨にも恵まれた愛知では、雨水を上手に受け入れ、巧みに活かす文化が育くまれてきました。
また、この地域の『ものづくり産業』は、雨水や里山といった穏やかで豊かな自然資源に支えられ発展してきました。しかし一方で、これら産業の発展やそれにともなう生活スタイルの変化は、雨水や里山の恩恵(恵み)をいつしか忘れさせ、生命の基礎となる生活環境の悪化も招いています。
記録的な豪雨により大きな被害をもたらした「東海豪雨」から15年、“自然の叡智”をテーマとして開催された「愛・地球博」から10年となる今年、「雨水」の今の価値を再発見するとともに、近代技術を組合せたグレーインフラ(道路・上下水道など)と、地形や生態系を活かしたグリーンインフラ(里山・河川など)を巧みに組み合わせ、“自然の叡智”を活かした雨水活用を考えます。
ありきたりをこえて雨水社会づくりへ
―第8回雨水ネットワーク会議全国大会2015 in 愛知/大会宣言―
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「雨師(うし)」たちの気運
わたしたちは雨の恵みを見失って久しい。しかし愛知で2015年夏、雨への愛情にあふれ、雨というゆるぎない友情の絆で結ばれた全国の「雨師(うし)*」たちは、「雨水社会」を目指して、雨水の池から楽しく泳ぎ出す清々しい場を生み出した。参加者は雨水を科学的実践的にきわめて知的で配慮に富む有能な研究者のレクチャーに耳を傾けた。雨を暮らしと環境に生かす多様な地域的技や術を日常・非日常にわたり、心愉しくすすめている住民の発表に共感した。「雨水の利用の推進に関する法律」(2014年5月施行)のあらましを、国の担当者は語った。天地創造をつなぐ雨の原初の姿への想い、そして雨を好きになる意識の触発をもたらす絵本活用の可能性のプレゼンテーションも行われた。人間がみずから生みだしたテクノロジーをどうしても制御できなくなっている現代社会にあって、Rainwater Harvesting, 雨を恵みとして活かす、雨水利用のヒューマン・テクノロジーを市民・研究者・行政・NPO・企業等の協働によって創造せんとする「雨師」たちの気運が会場にみなぎった。
「風かおり、緑かがやく、あまみず社会の構築」への気運がどのように盛り上がったのだろうか。そこで本大会全体を通じて、今後につなぐに値する重要な発言内容の要点をまとめて大会宣言としたい。
(*) 川上明日夫:雨師、思潮社、2007年
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漢詩四行詩を詠む
本大会は「雨は、恵と緑と情をはぐくむ~ものづくりの愛知の忘れもの 雨水 里山 環(わ)の心~」のタイトルのもとに進められたが、発表と対話全体に見え隠れしたキーワードをアドリブで漢詩四行詩にしたためた。全国の「雨師」たちの想いが、地元住民書家によって生き生きとカタチとして表された。こうした表現は、漢字の同音異義的イメージによる主題への想いをふくらませてくれるとともに、雨のしずくのような自由な書体がそれをいっそう促してくれる。(名畑雅彦 書)
読み方の順序は、横(左から右へ)、次いで縦(上から下へ、右から左へ)。
このレイアウトには雨水社会実現に向かって、「よこ・たて・ななめ」何でもありの発想でいこうという意味がこめられている。 -
10行キーワードの解読
漢詩四行詩を、順番に1行4字づつふくらみのある意訳として日本語におきかえて読み解いてみよう。- (1)雨庭は里環(さとまち)づくり、森と都市の同時再生をめざそう
- 内外の先進都市で始まっている雨庭(レイン・ガーデン)は、開発で破壊した自然の再生も含む
「賢いレジリエンス」であり、里とまちの同時生をもたらす「里まちづくり」につながる。 - (2)流域は水と市民の寛大なタンク
- 森は巨大な雨水タンクの入り口であり、流域地域会議は市民を広く集めるタンクであり、
流域文化の再創造を目指そう。 - (3)機が熟した、雨水を浸透させ蓄えよう
- 地球環境持続のために、雨水を「流す」から「たくわえる」へ。
そして浸透=しみこませるための浸透マス、浸透舗装等の絶好のタイミングがきた。 - (4)他者(雨水・自然・人間)への野性の情と想いを
- 現代は雨水を避ける「マイルド」な暮らし方が定着しているが、子どもが雨水と遊び、
大人が雨水を楽しみながら活用する「ワイルド」(野性的)な情と想いを育もう。 - (5)理想としての人間・環境が寛(ひろ)やかに浸しあう
- 愛知万博時にかかげた目標、人間と環境の相互浸透・共生の関係を、さらに時をかけて寛く育んでいこう。
- (6)おもい・情を蓄えよう、里域(さとまち)まちづくり
- 生命を育む里と形を作り使うまちを融合し、森と都市の同時再生地域形成を「里まちづくり」というが、
雨水活用はそのことへのおもい・情を高め深め蓄えることになる。 - (7)コンクリート・インフラからグリーン・インフラへの流れをつくり、生きる力を熟成させよう
- 近代・現代が築いたグレイ・インフラに、雨庭のシリーズ等グリーン・インフラを接続し、
人間も環境も生きる力を育もう。 - (8)エンジョイしよう、雨水を生かす機縁とフィールドを
- 雨水活用のチャンスと場を楽しみながら、それぞれの地域にあったやり方ですすめよう。
- (9)よき環境づくりは、マイルドを超えてワイルドを熟成させよう
- 人間が環境(雨水)にかかわる野性味を回復・再創造させることが、子どもの自然への感受性、
センス・オブ・ワンダーを育むことになる。 - (10)雨流を蓄える行動と想いのライフスタイルを
- 雨を水資源として活用するには、老若男女が雨に親しむライフスタイルを広め、
住民にも研究者にも行政にも「雨師」を育もう。
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ありきたりをこえよう
この10行キーワードの頭文字を上から下に読みつなぎ頭韻をふんでみると、もうひとつのキーワードに至る。「あ・り・き・た・り・を・こ・え・よ・う」
近代社会は、人間と自然、人と雨、と世界を二分化し、雨を流し捨てる「人工的世界」を造り、雨を人間にとって疎遠なものに追いやった。その結果、「利便性」と「物理的な富」は獲得したが、地球環境の持続が危うくなり、人間も荒んだ心情が広がる閉塞社会が「ありきたり」となった。しかし、水資源としての雨を活かすことによって、人間と環境と技術の間に共生的バランスのある「環境親和型社会」を実現しうる可能性が垣間みえてきた。
「ありきたりをこえよう」の意はそこにある。「ありきたりをこえよう」即ち、高度に発達した技術管理社会では手段が目的化し、雨水を下水道や海に流すことが「ありきたり」となっているが、地球から地域まで環境の生命を守り育み、人間と環境が幸せを分かちあう本来的目標を想起し位置づけてみよう。そのためには「ありきたりをこえて」、雨水を中心にしながら「参加と協働による環境親和型社会」づくりをすすめ、地域からの多様な主体の小さな想像力・創造力あふれるアイディア・手法・活動を集め、相互に学びあいながら、「グレー・インフラ」から「グリーン・インフラ」への行程を遊び心をもって楽しみながら進めていこう!
そのような方向感が参加者間に分かちあわれたことをここに記し、大会宣言とする。
2015年9月