第9回 雨水ネットワーク 全国大会2016in東京
めぐる水、活かす人、潤うまち ~雨からはじめるグリーンインフラ~
開催日:2016年 8月5日・6日・7日
会 場:東京都市大学 二子玉川夢キャンパス
雨に関わる市民、行政、企業、学術の情報交換や活動交流の場として2008年に設立された「雨水ネットワーク会議」。昨年の全国大会で、名称を「雨水ネットワーク」と改めることを決め、新たなスタートとなる今大会は、東京という都心にありながら、水とみどりに恵まれ市民・行政・企業・大学・子どもたちが連携・協働してまちづくりに取り組んでいる“二子玉川”で開催します。
雨水を取り巻く時代の状況は、“雨水の利用の推進に関する法律”の施行により大きく変化し、「雨水活用新時代」がいよいよ本格化します。加えて2015年には、自然の力を賢く活かす「グリーンインフラ」という概念が国の施策となりました。しかし、どちらもまだ広く知られているものではなく、今後どのように普及させ、まちづくりに取り入れていくのかが課題となっています。
そこで、本大会では、「雨水の活用」や「グリーンインフラ」を学び、これらを活かして地域で取り組む新たなまちづくりの展望を描き、全国に向け発信します。
8月5日 パネルディスカッション まとめ
大会初日、島谷幸宏(九州大学工学研究院教授)の特別講演から各グループでの話し合いを経て「めぐる水 活かす人 潤うまち」をテーマに全体ディスカッションを行なった。ディスカッションを始めるに当たり、栗原氏からはコーディネートする立場として、テーマから結論を出すというよりは、議論する1時間の中で様々な価値観を持った方達が「雨」と付き合う懐の深さを実感できる「場」としたいということでスタートした。
まずは、各グループでどのような話し合いがなされたのか、報告があった。
行政グループ
東京都の自治体にアンケートを行なった。結果、雨水利用の推進について、「取り組んでいる」との回答が75%だったのでのある程度の努力をしているのではないかと感じた。取り組みの目的が雨水の流出抑制や健全な水循環の再生といったことであるが、この目的だけではそろそろ限界なのではないか、今回の特別講演でも話しのあった「防災」をキーワードに行政として施策を進めていってはどうかとの意見が出た。また、行政の縦割りを「防災」という観点で連携が図れるよう取り組んでみてはどうか。
行政から市民、企業にお願いしたいこととして情報発信は行政では堅すぎるのでもっと面白く、一般に広く伝わりやすいものを一緒にやっていきたいとの提案もあった。
雨水利用、活用するに当たっての施設の維持管理が大変である。市民、企業にも連携して欲しい。
企業グループ
13社、メーカーからコンサルまで様々な関係企業が話し合いを行なった。企業としては行政からのトップダウン(主導)が欲しい。小型の雨水タンクの市場が災害時に増えるが平時には減ってしまっていた。「防災」がキーワード、平時からの設置と利活用をしていく。
また、企業として技術者、設置業者の養成が必要であると感じている。
雨水タンクの設置の費用対効果がわかりづらい。コストダウンに向けての取り組みも必要。行政への提案で国民の祝日として「雨の日」を作ってほしい。
市民グループ
市民グループでも「雨の日」についての話があった。20年前の“雨水利用東京国際会議”の開催を機に、8月6日を「雨の日」と提案したが、一般的には広まっていない。
「広げる」、「連携する」がキーワード。主体は「人」であり、活動については資金も必要。法制度や情報についても話題が出た。市民活動を続けていくために具体的に目標を示す。具体的に示すことにより市民と専門家が連携をしやすくなるのではないか。また、市民活動を続けていくために新しい血、若い人を呼び込むことが必要であり、その様な活動をするための拠点も重要ではないか。
雨水法について、知らない人が多い。キャンペーン展開をしてはどうかという提案があった。
テーマにも挙がっている「グリーンインフラ」を「雨」と絡め、他に先駆けて皆でどのように共通認識とするか、先ずその点について話し合った。国土交通省 堂薗氏からの話題提供でもあったようにグレーインフラもグリーンインフラの一部ではないか。防災として自分の家で出来ること、家に雨水をためるなどの取り組み、最大限自助を行なうこと、それが身近なグリーンインフラと言い換えてもよいのではないか。
自然の生態系には様々な機能がある。それを人間社会にうまく活用すれば暮らしは更によくなるのではないか。グレーインフラを否定的にとらえず、うまく自然の持つ機能とマッチングさせて人間社会に役立てるという活用の仕方がよいのではないか。また、その人の社会において地域づくりなど「誰かに任せる」のではなく一人ひとりが意識を持って関わっていくことがよいのではないか。
次の議論「連携」について、企業からは行政からの法制度、指導が必要であり、その他自治体からの助成制度などもうまく活用していきたい。市民からは、NPOでの活動は地域や社会に対して良いことだからという思いでやっているが、それだけでは続けるのは難しく、第三者の後押しも必要。その第三者とは行政や国民の声といったものである。また、行政の窓口で「雨水」と言った場合どこが担当部署であるか、不明瞭なので改善して欲しい。行政からは、利益を生む仕組みという提案があった。浸透施設を多くつけたら調整池を減らすくらいの仕組みをつくってはどうか。小さいタンクでも多くつければ効果が出る。また、治水施設は普段利益を生まないが行政としても雨水利用で公園などの散水で水道代を削減する必要があるのではないかと考える。
どうすれば雨水の活用を広められるか会場からも意見を求めた。
・企業、行政、大学を絡めたイベントを行うにあたり公民館を活用した。公民館では人が集まりやすい。市民は雨水を利用したいがどうしたらよいかわからない、タンクを設置したいが業者が分からないなどの問題がクリアになった。アンテナショップ的に効果を見せながら展開していくことも必要ではないか。
・水俣市の事例:やらざるを得ない仕組みを作った。やってみたら思ったより簡単だった。やり続けたら意識が高まった。雨水利用についても同じことが言えるのではないか。
やり続ける秘訣とは、キーパーソンが必要であり、活動に関しては「楽しい」と感じられることが重要。また、自宅に貯水することによる効果を行政も理解して費用に還元して欲しい。企業にも設置費用など安価にしてくれるとありがたいし、広がると思う。
行政は不確定なことに費用を出しづらいが、学識者には雨水利活用などをしている人への評価をして還元できるように取り組んでいただきたい。
費用還元の一例として、そもそも市民として、社会全体で環境負荷の加害者なので負担金を取る仕組みをつくり、貯留や雨水利用など良い取り組みをしているところへの還元する仕組み作りなどもあってよいのではないか。
その他のキーワードとして、「おいしさ」。雨水でコーヒーを淹れるなど「食」との関連づけも各地に広ろがりやすいのではないか。例えば、「雨にTea(アメニティ)」など洒落てみては?
いろいろと意見が出たように、味わうことや雨だれの音など雨をグリーンインフラに活用して五感で感じる暮らし、まちづくりをしていくことが今回のテーマに返っていくのではないか。
まとめ
「みんなで楽しくやっていく」をプラットホームのような場をつくり、広げていく。
提案
雨水ネットワークも10年という節目。いい川づくりワークショップのように、全国大会だけではなく、地区大会への展開も視野に
詳しくは報告書をご覧ください。
3日間の大会はとても盛りだくさんで、毎日がそれぞれ独自の面白さがあったと思います。雨にわ展示も併せて大きく4つのテーマ性があり、それぞれにまとめが行われました。初日の5日はこれまでの雨水ネットワークの流れを受け継いで、産官学民の連携と、市民グループ、行政グループ、企業グループに分かれて現況を見据えた議論を重ね、これをまとめました。2日目の6日はメインの企画で、グリーンインフラの基調講演とその意義を深める対談という新しく格調の高い方式が生まれました。そして各テーブルワークショップの同時進行という、夢キャンパスならではのユニークなスタイルができたと思います。
最終日の7日はこれまでのエクスカーションツアーを踏襲しただけでなく、ツアーから帰ってきて更にその集約を行いました。加えて、別会場で実施していた雨の庭づくりデザインコンテストの表彰式が合流し、今後の地域での展開に繋がる議論を行って幕を閉じました。
この3日間の流れは、これまでに行われた雨水ネットワーク全国大会に比べてかなり大きな広がりと先取性を持った展開になったと思います。ハードな3日間でしたが、都市大学さんが夢キャンパスという素晴らしい場を提供してくださったことや、世田谷区が区立二子玉川公園を提供して下さったことなど、多くの皆さんのご尽力もあって素晴らしい大会になったと思います。都市大学の学生さんたちの企画や、地元二子玉川で活動する環境NPOが川あそびを行うなど、子どもたちが参加する企画もあって幅広い世代の参加が得られました。そして多摩川と国分寺崖線の自然に対比しつつも屋上に自然を持ち込んだ二子玉川ライズの実践は、グリーンインフラとしての評価のよい例になることが示されたと言えます。まさに「めぐる水 活かす人 潤うまち」というメインタイトルに掲げたとおりの内容になったと思います。酷暑の中、多くのプログラムを予定通り無事に開催できたことに感謝したいと思います。
実行委員 神谷博